100均の筆と10,000円の筆はどう違う?実際に書いて書き比べた感想

書道用品店に行ってみると、書道用の筆には1000円から1万円以上も値段に幅があります。

見た目は割と同じなのに一体これは何が違うのか?

そこで極端ではありますが100円(100円均一)の筆と1万円の筆を書道歴30年以上の書道師範が比較してみました。

その値段の差はなんと100倍!!(正確には約70円と11,000円ですが…)

値段の差は、書きぶりはもちろん書いた字にどう影響するのか?

実際に書いて比較した感想をここに残しておきます。

見た目はあまり変わりませんが…

まずは見た目から比べてみました。

一見するとあまり違いはないような感じですが…

ぱっと見は100円筆は赤っぽい毛で1万円筆は茶色い毛です。

ただこの時点で専門的な目から言いますと、毛先のフノリをほぐした状態ですでに100円筆はばらつきがあり、1万円はしっかりと中心から均等に毛が植えられています。

正面からまっすぐに見た時に、真ん中から左右対称に毛が広がるのが良い筆とされていますが、100円筆は左右対称とは言い難く、1万円筆は当然奇麗な左右対称となっています。

また触った感触では100円はかなり硬めの毛で、1万円はほどよい硬さの毛でした。

あくまで比較しての毛の硬軟ではありますが、それが書きぶりや見た目にどう影響するのか、さっそく書いてみました。

さっそく書いてみました

書いた字は「口」「水」「東」と基本点画の練習になる字を選んでみました。

口はぱっと見に違いはないような感じ

水では払いの部分に微妙な差があります

東でも右払いなどでまとまりに差があります

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上の字が100円筆で下の字が1万円筆です。

それぞれを交互に書いてみましたが、カメラ越しにはなかなか伝えづらいかもしれません。

まず最初の印象としては、

100円筆はシャープな線質(やはり硬い毛だから)

1万円筆はしっとりと上品な線質(ほどよい硬さの毛だから)

という感じでした。

率直な感想1:「命毛(筆で一番長い部分)」のまとまり具合が違う

率直な感想として、

100円筆より1万円筆の方が圧倒的に筆先(穂先)がまとまります。(当たり前ですが…)

これはほぐした状態ですでに分かっていたことではありますが、良質な毛だけを集めて作られた1万円筆は100円筆と比べるまでもなく筆先がまとまり、とくにハラいなどが上手くいきます。

「口」を書いた場合はハネハラいが無いためそこまで目立ちませんが、アクロバティックな動きであるハネハラいのとくに最後の部分に性能の差というものが出てしまうようです。

文字どおり収める筆と書く画の最後の「収筆」の部分で、筆先をハラいであっても空中で収める動き(空収といいます)というものが非常に大切ですが、紙から離れるか否かの瞬間に毛先がまとまるのが良い筆の要素です。

やはりまとまりの良さは圧倒的に1万円筆があります。

しかし100円筆でも画像のとおりそれなりに書ける(ように見えると思いますが)のは、収筆の時にごまかす技術があればなんとかなるようです。

そのごまかす技術というのは最後に行くに連れて筆を捻(ねじ)るようにすること。

こうすることで筆の一番長い毛(命毛)が画の中心に集まってきて、ハネハラいがシャープになります。

これは100円筆以外にも性能が劣化してきた筆にも使えるテクニックかと思います。

率直な感想2:100円はガサガサ1万円はしっとり

そして次に感じたことは最初に感じた毛質の硬軟で、

100円筆はガサガサととにかく硬く、書いている最中に紙との摩擦音がかなり大きい。

1万円筆はしっとりと紙に毛がからみつき上品であまり摩擦音は100円筆ほどはない。

という感じでした。

しかしこれは毛質の硬軟が筆の性能を決めるわけではないと思いますので、好みの問題にはなりそうです。

また100円筆は毛が硬い分、非常にシャープな線で力強い印象を与えられますし、1万円筆はしっとりとかつ墨をよく含んでくれるので潤いのある上品は印象を与えられると思います。

100円筆だからダメというわけではなく、要は使い方一つであると感じます。

とくに穂先のシャープさを求めない書体である篆書や力強い書風の隷書の簡牘(細い木や竹に書かれた隷書)を書く場合などはむしろ100円筆で書いてみると正規から逸脱した面白い線質の違った趣の書になると思います。

筆の性能を決める4大要素「尖・斉・円・健」

ここで一つぜひ知っておいていただきたい書の知識に筆の性能を表す4大要素というものがあります。それは、

・尖(セン)=筆先がしっかりとまとまり尖ること

・斉(セイ)=筆先が捻(ねじ)れても平らになってととのうこと

・円(エン)=筆を下から見た時にまるくなっていて毛が管に均等に植えてありまばらになっていないこと

・健(ケン)=毛が均等にスキ間なく植えてあること

という4つの要素。

これら4つを全て兼ね備えた筆が良い筆ということになりますが、値段が高いほど揃っているかというとそうでもないのが経験上の話です。

値段が高いからといって良い筆とは限りませんが、高い筆ほど4要素の水準が高いのもまた事実です。

今回は100円筆と1万円筆の比較ということで、この4要素の中でも特に大事なのが「尖(セン)」という筆先がしっかりと「とがり(尖)」、書いている最中に筆先がきちんと元に戻ってくるか?

という特に習字における「ハネハラいがきちんと出来ているか?」という性能面に関しては圧倒的に1万円筆が格上の性能です。(当たり前ですが…)

一番の違いは書いている時に小細工が要らないということ

そしてこれが一番の違いで、

書いている最中に小細工が不要

ということ。

技術があればぶっちゃけ100円筆でも1万円筆でも遜色なく書くことは可能かと思います。

ですが、練習であったり、素直な運筆を身につける、という意味ではやはり値段が高い筆に軍配が上がると感じます。それも圧倒的に。

先にも申し上げたとおり、ごまかす技術があればそこそこ書けはすると思います。

しかし「誤魔化す」と書いて「ごまかす」というように、最初から正道からはずれた誤りがちな動きをする道具で練習すべきではないと思います。

1万円筆は確かに高価ではありますが、しかしそれだけの性能を得るたけも選りすぐられたエリートの毛を使って作られたものなわけです。

小細工が不要というのは、然るべき動きをすれば然るべき線を引くことができるということ。

その然るべき動きを会得するためには長い修練が必要なのは言うまでもありませんが、その動きを体現する技術獲得の習得する時間は性能の良い筆を用いた方が良いのは間違いはありません。

さいごに

今回はあくまで100円筆と1万円筆という超極端の比較でした。

最初から比べるまでもないとは思いますが、実際に書いてみての感想でした。

腕が上がれば100円筆でもそれなりに書ける!

しかし練習にはそこそこの筆を使うべし!

ということです。

練習には高価な筆を、というのは間違いはないとは思いますが、だからといって1万円筆で練習をしなさいということではありません。

実際は3000円から5000円の筆ぐらいからはじめるのが良いですし現実的かと思います。

私も日頃の練習に使っている筆は3000円筆を使っています。やはり気安く使えて良いです。

安いからといって100円筆はさすがに…というのは世間一般的にもそりゃそうだろうということの一つの証明にもなったと思います。

ただ一度ぐらいは1万円筆を使って書いてみて、その性能差を感じてみるのも良いのではと思います。(周りの先生にでも一度書かせてもらうのもアリだと思います。)

高性能なたった5センチの毛を得るために、膨大な毛から選りすぐられたエリートな筆の性能は、比べるからこそ分かるのではと思います。

ぜひ一度書く機会があれば書いてみて下さい。

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この記事の内容を動画解説してみました。ぜひ一度ご覧下さい。