【経験談】賞状技法士を2年間受講してみた率直な感想【準1級取得まで】

著者近況

この度、数ある賞状書士と呼ばれる民間資格の中の一つで、約2年に渡り受講を続けた成果として「賞状技法士準1級」というのをいただく事ができました。

この記事では賞状技法士を約2年間通学受講した体験談を含めた、私の率直な感想や意見、また一応の区切りとしての思いを語らせていただこうと思います。

賞状書士とはどんな事を学ぶのかな?受講システムは?といった事についてなど、参考になるようになるべく詳細に書いていこうと思います。

賞状学校に通ったキッカケ

私が受講した賞状書士の民間資格は、

日本賞状技法士協会という団体が主催・認定する「賞状技法士養成講座」の「賞状技法士準1級」

というものです。

約2年に渡り、日本賞状技法士協会が認定する賞状技法士準1級をいただく事ができました。

私は現在京都に住んでいますが、書を生業とすべくいろんな事をやろう!

という挑戦の意気込みの中で、賞状を書く筆耕業という仕事も視野に入れていました。

実は私の前職は役所の公務員(土木行政)という道路工事を発注する部署にいたのですが、

土木の仕事の合間にいろいろと(本当にいろいろと)賞状をはじめ、優勝旗のペナント、桐箱の箱書き、看板書き、公園名の題字書き、過去帳などなど・・・

さまざまな事をやらせていただいてきてはいましたが、対外的に示すための資格(民間資格であろうと)もあった方が良いかもという気持ちから、

いろいろと検討した結果、通学圏内にある大阪の日本賞状技法士協会大阪校に月に1回通っておりました。

受講のシステム

賞状技法士養成講座は月1回の1日に約4時間(または月2回の2時間ずつ)のカリキュラムをこなしていき、

およそ1年半かけてきちんと履修すれば、賞状技法士準1級まではいただけるというシステムになっています。(詳しくこちら

6ヶ月かけてそれぞれのカリキュラムをこなせば、賞状技法士3級→2級→準1級というランクをそれぞれいただけるという仕組みです。

(※私が2年ぐらいかかったのは、たまに受講できない月があったからです。順調にこなせば1年半で準1までいけます。)

1年半かけて準1までなった後はどうなるか?というと、直接聞いてみて分かったのですが、

年に1回ある(11月に開催)1級試験というものがあり、それにパスすれば晴れて1級をいただけるというシステムです。

やはりどこの団体も1級だけは特別扱いなのは同じく(鹿児島の競書の師範試験も同じような感じでした)簡単には通してくれないようです。(ぶっちゃけ金がかかります。)

1年半のカリキュラムをこなし準1取得後のコースは、マスターコースやエキスパートコースという名で1級に合格するまではエンドレスで受講が可能とのこと。

感覚的には1級受験の予備校のようなイメージになるのかなと思います。

またそこから毛筆書士や実用書道師範、行書、ボールペン、筆ペン、前田書法研究などなど…いろんなコースへと分岐できるようです。

ただ、どのコースであろうと、月1万円程度の費用(当然ですが)はかかり続ける(当たり前ですが)…というのはネックになるし、分かっておいた方が良いと思います。

ちなみに(私は知らなかったのですが)通学中であっても1級試験は受験できるらしいです。(一応公募形式なので。)

しかし在学中に1級試験が11月にありますよと案内はされてもぜひ受けて1級を取りましょうね!

とは一度も言われませんでした。なので私は在学中は受けてはいけないのかな…?と思っていました。

つまり腕さえあれば、3級カリキュラムを履修する際中にタイミングが合えば1級試験を受けパスすればそれで目的達成することも可能です。

ですがそこは客商売たる講師の先生方もおおっぴらには言えなかったのかもしれません。

後述しますが私としては準1でも良いし、十分賞状書きの章法は学べたので一応休学(最長1年)扱いはできるそうなのでそうしました。

これからは独自に別な道を進もうと思っています。

(※受講システムは日本賞状技法士協会のホームページからは文章だけなのでぶっちゃけイメージが分かりづらいです。

体験入学で行った際にでも学校内にコース全体の一覧表がありますので、それを見せて下さいと言えば見せてもらえると思います。

全体の概略を知ってから受講を決めるのも良いと思います。私も見せてもらえば良かった…

月謝(費用)はだいたい月1万円程度の計算になる

気になる費用についてですが、

3か月更新型で、月割りにするとだいたい月1万円程度かかる計算になります。

教材費込みで月1万円の、賞状や宛名の書き方を教えてもらえる細字特化の書道教室といった感じです。

私の担当になった先生は2人組の女性講師の先生方でしたが、叱られることなく(←ここ大事!)優しく教えていただく事ができました。

ただし練習教材が込みとはいえ、硯や墨・筆は別料金となります。

とくに筆に関しては消耗品(しかも最近は値上がりしたとか)なので結構バカにならない値段になります。

賞状書きはカチッとした小さい楷書(細楷)を3㎝以下のサイズで書かなければならないため、先が良く効く筆が必要です。

(しかも小筆は消耗が激しい(すぐに先が割れて使えなくなってくる)ため、中筆以上と比べて消耗サイクルが短い事もあり、そういった部分にお金がかかる事は一応知っておいた方が良いかもしれません。)

筆文字という非日常 相応の覚悟が必要と感じた

筆文字というは、今の時代、もはや非日常です。

昔は筆記具といえば筆しかなかったわけで、それが長い歴史の中で美しく書く方法としていろんな書法が出てきたのでしょうが、

現代は墨を摩り、筆で文字を書くこと自体が日常ではなくて特別で特殊な事です。

ここをお読みのあなたも、筆を持つのは年賀状シーズンぐらいで、それすらも筆ペンで書くぐらいではないでしょうか?

それぐらいの非日常な筆文字で、しかも賞状という小さな楷書をたくさん並べ、しかもひらがな・カタカナを織り交ぜて書くという事はもっと特殊な難易度の高いという事は前もって分かっていた方が良いと思います。

まずは3級を目指すべくスタートするこの賞状養成講座は、相応の覚悟を持って臨まなければ続かないと感じました。

私自身は毎日墨を摩り古典を臨書をするという習慣があり抵抗もなくやれましたが、そんな私が「ダルイ!」と感じるぐらい大変でした。

その大変な賞状をある程度の水準にまで腕を上げるためには仕方ないぐらい宿題のボリュームも多いですし、生活時間を圧迫するぐらい大変だという事は分かって受講された方が良いです。

2級をいただく時につくづく感じましたが、

「まったくの筆を持たない人は続くのかこれ・・・?」

とふと、率直に口から出た言葉です。

(それとこれは蛇足ですが、教材自体にも古さを感じた部分があります。

昭和の年月日があるのは仕方がないですが、カリキュラム全体を見直す必要なあると感じました。アンケートには書きましたが…)

順当にやっていけば準1まではいただけるというご褒美を目指して、覚悟を持って受講する事をお薦めします。

約2年におよぶ教材たち。A3封筒いっぱいが8袋になりました。

実用書道というプライド

所で今の日本の書は「芸術書道」と「実用書道」という2種類の言葉で分類されているような実態があります。

私の個人的な意見は実用の果てに芸術があるのでそんな分類自体がナンセンスだとは思っていますが、

実用書道を指導するという講師の先生方のプライドをたまに感じる事がありました。

賞状書きというのは筆耕という仕事もあるように実用に供する仕事であり、そのために小さい楷書(細字)をたくさん並べて美しく見えるように書く技術が必要です。

私はこれこそが書道で習うべきであり、大字練習ももちろん大切ですが、拡大の練習として捉える視点も必要と思います。

でもどうも一般的な書道教室は大字指向・至上という傾向が強いと感じています。

大字指向・至上が行きすぎて、書家なのに細字が書けない、あて名が満足に書けない…といった事に繋がっているのではと密かに感じています。

(だから私の教室では小学生の時から筆ペンなど細字の練習をさせます。大人になってからはそれこそが役立ちますから…

この問題はここでは大きく取り上げませんがそういった問題に対する思いから、細字テクニシャンたる講師の先生方のプライドを感じる事がありました。

そういった意味では一般的な書道教室では学べない事が学べるという点では非常に意義ある事だと思います。

年一回の賞状書道展(通称:前田展)は必ず参加するべき

また年に一回、9月頃に前田展という賞状や宛名書きオンリーの展覧会があります。

これは任意の自由参加なのですが、慣れない筆文字カリキュラムの中で忙しいし別料金だとしても、必ず参加するべきです。

というのも、基本的にカリキュラムはインプットすることが多いのですが、前田展に出品するためには実践に近いことを自分で考えて行わなければならないアウトプットの要素が強いからです。

通常カリキュラム+独自で賞状作りのダブルパンチですが、そこを乗り越えた時の達成感は大きいですし、なにより学びが大きいです。

先生方のサポートもしっかりしていただけますので、ぜひ年1回の追加の修行だと思って参加される事を強くお薦めします。

受講して良かった事・悪かった事

約2年に及ぶ賞状技法士養成講座でしたが、受講して良かった事を悪かった事を挙げていきます。

【良かった事1】賞状の章法 文字の配置やルールを学ぶには最適です

章法(しょうほう)という言葉は書道用語かもしれませんが、

章法=体裁や文字を上手く配置すること、です。

私は役所時代にいろいろと賞状を書いてきましたが、それを含めたバージョンアップ的な感じで賞状の書き方のあらゆるルールを学ぶことができたことが一番良かった事です。

一番スタンダードなA3サイズの賞状を書く場合の、例えば「賞状」だったらタテ長さ7.5㎝だとか「表彰状」だと9.5㎝にしなければならない、などなど、厳密なルールをかなり口酸っぱく言われます。

ですがそういった厳密ルールをまずは知って守り、そこから派生する感覚が身に付いた事が一番の収穫だと感じます。

例えば題字の「表彰状」は9~9.5㎝!というのも厳格に言われます。

ラストの宿題1:結納の目録。今時ではなかなか見かけないものかも。

ラストの宿題2:遺言書。今の時代はパソコンで作るでしょうか…。

【良かった事2】実際書いている所を観る事ができる

私は書を上手くなる近道として「書いている所を観る」ことを特に重視すべきと思っています。

実際に書いている所を観ることができた事も非常に良い経験でした。

もし賞状書士を受講される予定の方は、たとえ遠方であっても何回かは直接習い、先生の書いている時をよくよく観察されることを強く薦めたいです。

書いている時の筆先はもちろんですが、筆の持ち方や、手や肩の動き、そして身体全体、

さらには先生の呼吸までをも写し取るような意気込みで観察されると良いです。

書かれた結果からのお手本で形を学ぶことも良いですが、書いている過程を観察することも同じぐらいかそれ以上の学びや気づきに繋がります。

それに受講料はほとんど人件費なわけですから、その先生の時間を買うぐらいの意気込みで、通信ではなくぜひ直接受講されてください。

【良かった事3】自分の字の本質を少し理解できた

これは良かった事かは意見が分かれるかもしれませんが、

自分の字の本質だったり性質というものが多少なりとも理解できた

という事も非常に良かった点です。

結論から言うと

「私の書く字は賞状の字には向いていない」

という事が分かったのですが、私の書く本来の字は偏平で平べったくなる傾向が強い事が分かってきましたし、また細くて弱々しい字にもなりがちです。

これは私の性格的にもどうしようもない事なのですが、篆書・隷書・草書・行書・楷書・仮名の6つのうち、隷書と仮名が一番好きな事と無関係ではないと思います。

隷書は偏平ですし、仮名は線が細身でないといけないからです。

でもこれって、荘厳性・謹厳性が必要な賞状の字とは真逆の性質になります。

篆書や楷書に荘厳性・謹厳性を感じるのは、それが白銀比と呼ばれるぐらいのタテ長であり、また楷書は肉太に書いた方が立派に見えます。

…私の字の本来はそもそもそういった事と真逆…という事に気づけた事は大きな収穫でもありました。

でも逆をいうと、そこを分かって自分の字を盛って書くようにする必要がある事が理解できたという事でもあります。

そういった点で、良かった事だと思っています。

最後の賞状書きの宿題。前田書風を忘れて多少なりとも自分なりに気持ちよく書けた賞状。盛ったこれでも偏平で細めの傾向があります。

和紙と洋紙に書く事の厳密な違いが理解できた

これはもの凄くマニアックな発見なのですが、

書道の紙は和紙で、賞状書きの紙は洋紙です。

同じ墨で字を書く時の厳密な違いが理解できたこともまた良かった事でした。

和紙は墨のニジミがありますが、洋紙はほとんどニジムことがありません。

その違いからも字の中の画を繋げるか?繋げないか?中峰にするか?しないか?など、本当にマニアックな部分なのですが宿題を通して数多くの賞状を書いていく中で発見できた事です。

そもそも筆文字を洋紙に書くという事自体が最近の事なので、そういった違いを理解した上での作品作り(賞状も作品です)というのも必要だと思います。

説明が難しく伝わらないとは思いますが、その違いがあるという事を知っておくのも良いと思います。

【悪かった事】御家流…前田書風の摂取が前提…

世の中良いコトもあれば悪いコトもある…という事で、受講していて辛かった点もありました。

それは前田書風という、この賞状学校(日本賞状技法士協会)が天皇・シンボルとして掲げている書風で指導するという事です。

この前田さんという方が、公務員(国家公務員)時代にたくさんの賞状書きをしていく中で編み出した賞状の書き方をまとめたノウハウを元に設立されたのがこの学校であり、当然、前田さんが確立した書風で指導します。

私は書道経験もあり、ある程度自分のかきぶりがあった事もあり、この前田書風があまり好きではありませんでした。。

(いくつか賞状書士の資格を調べる中では一番まともそうだったのでここを受講しましたが、やっていくうちにそれでも・・・)

とくに「ひらがな」が独特で、賞状書きの漢字とマッチさせるべく前田さんが長年かけて編み出した書体なのでしょうが、どうにも好きになれませんでした。

たしかにスキのない上手な字であり、上手い!と思わせる字でありますが、個人的にはあまり長くやらない方が良いと思っています。(あくまで個人的にです)

章法だけを学べれば良いのでしょうが、そこは天皇たる前田書風を含めた指導が前提なので講師の先生方もそれに矯正しようとしてきます。

(逆にそういった指導しかできないのは雇われた講師の先生たちも辛い所かもしれません。御家流に近い感じで一種前田書風を守るという部分もあるでしょうから。)

これはこの学校の生徒である限り仕方ないことで甘んじてやってきましたが、苦痛だった…というのはここにこっそり記しておきたいと思います。

(ちなみに書の歴史的には、御家流などの流派の保守は俗書の入り口になっているという事があります。なのであまり長くやらない方が良いと個人的には感じます。)

なのである程度書道経験がある方が、細字をメインに賞状書きを学びたいという目的だった場合は、前田書風の摂取ありきで指導されるというのは分かって受講された方が良いと思います。

それから、これはすごく地味ですが、通学をする際のA3サイズの鞄を持ち歩くのは結構ツラかった。。のもこっそりとここに書いておきます。大阪の街中をかさ張るデカい鞄も持って電車乗ったりはツラい部分もありました^^;

1級を目指すべきなのでしょうが…

先に少し書きましたが、私は準1級のままでこの学校を卒業するつもりでいます。

せっかく20万円以上もかけて準1になったのに、当初の目的であった賞状資格の最高位を得られるまでは頑張れば?という意見もあるのは重々承知で、です。

理由大きく2つあって、

・単純にお金の問題。

・古典から書風を確立したい。

という事からです。

お金の問題は、これ以上の1万円の課金は我が家の財政的にもキツイということ(これが一番かも)。

それにある程度の賞状書きの章法を学ぶことができたので、これから先は資格取得よりも古典から自分の書風を確立したいという思いが強いことです。

2年も前田書風手本に似せて書く練習をすれば、おのずとその書風が移ってしまいます。あまり好きではない書風にこれ以上染まりたくないという思いもあります。

自分の書、というものを見つめ直した時に、指針となるものはやはり好きな古典だと思います。(私は古典マニアなので…)

何かをやるには人生はアッという間と言われます。限りある時間の中で、何を土台をするかを選別する眼こそが一番重要だと思うのです。

どの古典を学ぶか?選ぶか?という眼を養わせる指導をするのが世の弟子を持つ書家の一番の命題だと思いますが、自分の眼の高さが上がってくる中で学ぶべき古典というものが多少なりとも解ってきます。

前田書風が決して悪いわけではありませんが、どうしても新しい時代の人なので、やはり学ぶべきはもっと古いものから摂取しながら、自分の書の血肉とすべきと私は思います。(こちらの記事も参照ください。)

新しい時代の人の書は、なるほど現代の様式にマッチしていて上手くスキ無く書かれているのでつい真似したくなり、真似ができればある程度上手くなったと感じることもできます。でも、新しいからこそ浅いとも感じます。

手本を間違うと一生を棒に振る、とは私の中での戒めですが、お手本のクオリティや選び方には本当に気を付けるべきと思います。

受講を検討しているあなたへ

いろいろと個人的な思いや感想を織り交ぜながら述べてしまいましたが、これらが今の私の率直な感想です。

賞状書士など、書について、資格について、いろいろと検討されているあなたへ最後に一言だけ、

どんなお手本も方便である。

ということをお伝えさせて下さい。

学校の書風や古典は方便という一つのカタチです。

私は学校書風を破り、離れる覚悟をしましたが、守破離の守りという意味では学校の書風も十分に学ぶべきものです。

ですが、そこにずっと拘泥はしないておいて欲しいと思っています。あくまで方便です。

どうかあなただけが書ける自分の書を目指して、学校も方便の一つとして選んでみて下さい。

最後に、前田書風が学べる本が出版されていますのでご紹介します。

この本をよく読まれてから実践カリキュラムとして賞状学校を受講するでも遅くはないと思います。

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田畑明彦

田畑明彦

在野の書家。字は誰でも綺麗になれる!という想いから分かり易い美文字法を発信していきます。書を始めて30年以上、脱サラして書で身を立てるべく京都の住まいから地元鹿児島へ戻りさらに奮闘中!書の勉強の果ての日本語を美しく書けるようになりたい!百聞は一見にしかず。動画にて美文字の解説しております。下↓のYouTubeボタンから。

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